「FLASHアニメーションの進化」にいってきた 物語の行方
先のエントリーでも書いたように恵比寿写真美術館でおこなわれる「FLASHアニメーションの進化」
にいってきた。
10分前に会場につくと長蛇の列。100人くらいだろうか。これほど人気だとは予想外だった。立ち見の可能性が高い。
「入場できない場合はご了承ください」
と釘をさされる。
後ろにはまだ50人くらいの人が並んでいる。整理券を持った人たちが足早に会場に入っていく。
整理券が必要なほどのシンポジウムでもあるまいに、と思っていたのだが完全に読み違えた。
築地を出るときに余裕をかましてベローチェでカフェラテなど飲むんじゃなかった、
と後悔しつつもどのような人々が集っているのかを観察していた。
20代の人が大半だろう。女性の姿も多い。3割以上が若い女性だ。
どうにか列が動き出した。早速、
「これからのお客様は立ち見席になります」
といわれる。まあいい。係が少しづつ、10人くらいづつ入場させていく。なにも第2会場を準備して中継すればいいものを、
と思ったが大学とちがってそういうノリの良さはない。宮仕えな雰囲気である。
ようやく順番がきた。
「あと5人ね」
と囁いているのが聞こえた。数えてみると自分ともうひとりの男性の手前で止まってしまう。ひとり差で入れないのもなんだな、
と思っていると
「あと1人」
といわれた。隣の男性と顔を見合わせる。
「お二人様ですか?」
いやちがう。
「ひとりです」
と答えると
「ではお二方どうぞ」
と中に通された。オレと隣の男性まででドアは閉ざされた。
後ろにならんでいる50人強の人々は無情にも入場することができず帰ることを余儀なくされた。
会場は人でいっぱいである。これまで何度もきているがこのホールにこれだけ人がはいっているのははじめてだ。
それだけ注目されているということか。
ウェブの製作に関わる人々にとってFLASHが使えるかどうかは死活問題だろうから、みんな関心があるのだろう。
会がはじまった。
クリエイターらしき人が司会をつとめるようだ。滑舌は悪くないがまとめかたは上手ではない。良い人そうな空気が全身からただよっている。
順次クリエイター陣の紹介とともに登壇する。竹熊先生ははじめて話をきいたがスゴク声が良い。
アドビの担当者がFLASHについての説明をはじめた。正直、蛇足である。
こうした会合の協賛をつとめているのはわかるがあからさまな販促はかえって逆効果である。もっとユーモアを効かせるべきであろう。
各クリエイターの作品紹介がはじまった。
最初はポエヤマさんという方の作品。
個人がFLASHを使ってこれだけのアニメーションをつくれるものなのか。驚愕した。
ストーリーと作画をしっかりやったら商用アニメーションとしても通用するのではないだろうか。動きの軽さ、速さは目を見張るものがあった。
TVなどのアニメーションとは微妙に質感が異なるがそれが逆に新鮮でもある。8mm、16mmの映画をみているような感じに近い。
が、真の驚きはその後で訪れた。作品を解説しながらポエヤマ氏が
「いまお見せした映像はわりとシリアスな感じだったんですが。僕ので知られているのは。某殺し屋が某牛丼チェーンについて…」
といったところでその映像がスクリーンに上映された。
ナント!!!!!
この人だったのか!!!!
いやー、衝撃である。前に僕のブログでも紹介したがこのポエヤマ氏が
「吉野家」
の制作者だったのである。上記、FLASH、
あまりにも面白いので何度かみてしまったが印象ではもっとテキトーに遊びで高校生くらいの子が作っているのかと思っていた。
バリバリにプロのFLASHアニメーターの作品であった。いやはや、驚いた。これだけ幅のある作風の作品をつくっているのか、
目の前にいるこの人が。
しばし、場を忘れて周りの人たちと一緒に笑っていた。
こうした笑いの場を共有できるのはなかなか嬉しいものでさっきまで見知らぬ人だったのに何か仲間のような気持ちになってしまった。
さて、その後もいくつか作品が上映された。面白かったのは「蛙男商会」という方(会社)
の作品なのだがネットでは見つからないようだ。
FLASHで描かれたキャラ(料理店の店長と店員)の対話で笑いをつくりあげていくのだが声(本人がやっている)とチ絵
(チープだけれどすごく個性的)のバランスが絶妙で最初は「なんでこんなの上映すんの?」
と思っていたがしばらくみていたら引き込まれてしまい、思わず笑ってしまった。
アニメーションなのだがショートショート、あるいは4コマ漫画的でベタなのだが絵とのバランスがよいから笑ってしまうのである。
他の作品も「FLASHっぽさ」のあるものばかりだったが上記、二つのが俊逸であった。
上映の後は竹熊先生を交えてFLASHアニメーションについての議論がはじまった。これが面白かった。竹熊先生、実に熱い。
面白かったのは次のポイントである。
FLASH、あるいはインターネットにおけるアニメーション表現・作品の進化の歴史をみていくといくつかの波があり、
それぞれの波を象徴する作品があらわれる。
「ほしのこえ」の衝撃があって、そこからウェブ上のアニメーションがいっきに変わってきたとのことである。
「個人でもアニメーションをつくることができる。これは手塚治虫の夢である」
と。とはいえ、作品の製作によって生活できるという環境はまだできていない。
基本的にネット上のコンテンツは無料であってパッケージ商品として流通させることでリアルとの接点ができ、お金の動きが発生する。
これはアニメーションに限らず、ネット上のコンテンツ全般についてあてはまる。
(情報商材などは例外だがあの商品群は個別では超ニッチな商品なのでああしたモデルが成立する)
ここがどのように整備されていくのか。
YouTubeやGoogleのようなサービスがコンテンツの管理と課金までをまかなうようになるのか。今後の展開が興味深い。
僕個人の意見を書くと基本は無料だが「ナニカ」が加わると有料になる、というモデルが来るのではないかと思う。
竹熊先生から、コンテンツの中身についても提言があった。これはかなり面白かった。
先生の友人で藤原カムイさんという漫画家がいて、彼は1997年くらいからMacを導入した作画を開始していたそうである。
最初はパーツを貼り付けたりといった作業内容だったのがタブレットを導入し、段々と画面上で全てをやるようになった。
すると紙というメディアにおける「コマ割」の感覚とモニター画面でのコマ割の感覚は違うと思うようになった。
画面上の自分が製作しているこの環境で読者に物語を伝えたいという欲求がでてきた。これは自然な欲求であり、今後、
漫画とアニメーションというものは融合していくのではないだろうか?
という問題提起であった。いよいよ盛り上がってきた、といったそのあたりで時間切れ。
そして、最後に上映されたのが「吉野の姫」という作品であった。
作品が上映されると、ハっと思った。
「これって、サウンドノベルみたいだな」
と思った。サウンドノベルは簡単にいってしまうと絵と音付きの半分アニメ、半分マンガ、
半分小説みたいなハイブリッドなアニメーションである。
この形式は前々から注目していたがFLASHアニメーションの作品にもこうした形式に近似したものが登場しているのは示唆的であった。
いろいろなタイプの作品が上映されたのだが全般的に「物語性」の貧弱さを感じた。ストーリーものだと、どこかでみたような映像、
どこかできいたようなストーリー。笑いの場合でもパロディ的なものに向かう。
それぞれオリジナリティは皆無ではないのだが完成度と圧倒的なパワーという点では「弱い」。これをもって
「FLASHのアニメーションはまだまだだな」
といってしまうのは簡単だがおそらく衝撃的な作品、破壊的なパワーを持つ作品が現れるのはこれからであろう。環境が整い、
制作者の母集団がある閾値を越える頃、おそらくあと1〜2年の間に「ほしのこえ」を越える衝撃をあたえる作品が登場するであろう。
会場の熱気と作品群の安易さ、危うさ、ナイーブさをみていて、そんな予感がした。これからが楽しみである。
この投稿へのコメント